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第1 非上場株式の譲渡手続と株式の評価

4 判例
(18) 札幌高裁 平成17.4.26(事件番号:平成16(ラ)88号)
(イ) 事案の概要
譲渡制限株式の第三者への譲渡につき承認を求められた対象会社甲社が、自らを先買権者に指定した事案
(ロ) 対象企業の特性
(業種)  酸素ガス製造、溶解アセチレンガス、窒素ガス等の製造販売
(規模)  昭和4年に合資会社として設立された後、昭和34年6月に株式会社に組織変更
資本金8000万円
道内に6箇所の事業所、4箇所の工場がある
(その他)  甲社の株式が過去10年間に売買された事例はない。
甲社の外部環境は、A社が業界の約95%のシェアを占め、甲社を含む他の企業が残りのシェアを分け合うという典型的な独占市場であり、その中で甲社は独自の取引先を確保し、長期安定的な地位を確保している。
新規企業が市場に参入してくる可能性は低い。
甲社は極めて長期にわたり生産設備関連の投資を抑制してきた結果、高い利益率を確保し、内部留保を順調に蓄積してきた。
業績は順調であり、ここ十数期の毎期、12%(1株あたり60円)の安定した(定額の)配当を継続している。
会社の清算を予測させる事情は認められない。
(ハ) 株主構成
発行済株式総数16万株
東京中小企業投資育成株式会社が5万3500株、合資会社乙社(甲社の代表取締役が、同社株式の94%を保有している)が5万1300株、譲渡株主が1万0500株、甲社の代表取締役の同族関係者が合計3万5700株をそれぞれ保有している。
甲社の代表取締役は、同族関係者及び合資会社乙社を通じて、甲社の過半数(約54.4%)の株式を保有している。
譲渡株主の保有株式数は第3位(全体の6.56%)であり、非支配・少数株主である。
(ニ) 採用された算定方式
配当還元方式(1株600円):再調達時価純資産方式(1株2万0184円):収益方式(1株1万0383円)=1:1:2
(1株1万0387円)
(ホ) 算定方式採用理由・要旨
  • 株式会社が旧商法204条の2、204条の3の2の規定に基づき自らを株式の先買権者に指定した事案において、その株式会社は自己株式の取得により当該株式についての配当を免れる立場にあり(同法293条)、将来配当利益を受けることを目的として自己株式を取得するということはあり得ないから、株式の価格決定に際し、株主が将来受けるであろう配当利益を基礎とする配当還元方式に重きを置くことはできないというべきであるし、またこのような事案についてまで配当還元方式を原則とすることが実務的に確定していることを認めるべき資料もない。
  • 本件株式の買手である甲社の立場からすれば、本件株式の取得により配当を免れた利益を内部に留保しうるだけでなく、これを活用して更なる利益を直接に受けることもできるのであるから、収益方式を基準として本件株式の価格を評価するのが合理的である。
  • 売手である譲渡株主の立場からすれば、もともと本件株式を保有していても、配当利益と、万が一甲社が清算段階に至った場合には残余財産の分配を受けうるにすぎないから、配当方式と純資産方式を基準として株価を算定するのが合理的である。
  • 甲社がこれまで高い利益率を確保しながら、利益配当を定額に抑えてきたこと等を考慮すれば、売手である譲渡株主の立場からする本件株式の価格の評価は、配当還元法による配当方式と純資産方式の中間値を採用するのが相当。
  • 買手の立場からの評価と売手の立場からの評価のいずれかを重視するのが相当であるといえるような事情が見当たらないことからすれば、本件株式の評価は、配当方式:純資産方式:収益方式=0.25:0.25:0.5の割合で組み合わせる併用方式によりその価格を定めるべき。
  • 甲社のように、近い将来における会社の清算を予測させる事情のない、いわゆる継続企業の純資産を評価するにあたり、会社の清算を前提とする評価方法を用いるのは妥当でないから、純資産価格方式のうち再調達時価純資産法を用いるのが相当。